「トライ」はくせ者

 通訳学校で使った教材に「弊社はお客様に環境にやさしいソリューションをお届けしようとしています」という話者の発言があった。数人の生徒が”We are trying to offer green solutions to our customers.”とやって教育的指導を受けるはめになった。何がいけないのかお分かりになるだろうか?

 上司から「今日は絶対に契約を取って来い」とはっぱをかけられて「頑張ります」のつもりで”I’ll try.”なんぞ言おうものなら、このご時世、リストラ対象者になりかねない。やってみるけど結果に責任はもてないと解釈されるからだ。”I tried.”と肩をすくめたら「頑張ったんだけど・・・」とか「言うだけは言ったからね(納得してないようだけど)。」”A man tried to rob a bank.”は銀行強盗が未遂attempted bank robberyに終わったことを伝えている。

 お留守番をしていた8歳の甥っ子がコップを洗おうとして間違って割ってしまった時「ママを喜ばせようと思ったんだね」と慰めるつもりで” I see you tried to please your mom.”と言ったら、とても意地悪な叔父さん/叔母さんになってしまう。いい子になろうとしてもそうはいかないと言っているようなものだからだ。ここは” I know you wanted to make your mom happy. She’ll understand.”と希望を残してあげるところだろう。

 冒頭の生徒の訳では肝心のソリューションがまだ完成していないか、もしくは顧客にとりつく島もないように聞こえるのだ。日本語は言い切ることを避ける傾向のある言語なので「しようとする」を額面どおりに受け取ってはいけない。「日本はODAを通して世界の発展に貢献しようとしています」にtryを使ったら、せっかくのODAが効果を挙げていないと言っているようなもの。英語にするときは遠慮せず「貢献しています」と言い切らなければ、出しているお金に見合ったプレゼンスを獲得できない。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2009年6月号掲載)

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