しばらく前の話になるが、telcoとかキャリアcarrierと呼ばれる電気通信事業者のプレゼンテーション資料で何度か蛙のイラストを目にすることが続いた。leapfrogの象徴である。leapは飛ぶ、frogは蛙。でも蛙跳びではない。子供の頃お互いに丸めた背中を跳びあった馬跳びのことだ。二人でする様子から「ぬきつぬかれつ」の意味があるが、 キャリアが言いたかったのはそれとは違う。
日本や米国などいわゆる先進国の通信は、固定回線をひき、何度も中継しながらその距離を伸ばして通信網を構築する固定電話から始まっている。1976年にグラハム・ベルが発明した電話は、翌年にはすでに日本に輸入され、さらに1年後には国産電話機1号が制作される。交換手が自動交換機に変わり、さらにそれがデジタル化し、やがて携帯電話が導入される頃には固定電話はほぼ全ての世帯に普及していた。
一方途上国では都市部にしか固定通信網のインフラがない。それどころか送電網さえ無い地方もある。そこで携帯電話がleapfrog technologyとして登場する。固定電話を飛び越えて、いきなり携帯電話を普及させるのだ。全ての家庭に電話線を引くよりはよっぽど安く済む。もちろん電気がなければ機能しないので、送電線がなければディーゼル発電機を使う。日照時間の長いインドやアフリカの各地でそのディーゼル発電機が送電網を飛び越えて太陽電池PV photovoltaic cellsに置き換えられようとしているのもleapfroggingだ。
日本の携帯は高機能すぎて独自の進化を遂げたガラパゴス携帯だと揶揄されることがあるが、オオトカゲやゾウガメのように泰然とわが道を行ってかまわないのではないかという気がする。普通のテレビをワンセグが飛び越えるなんていうことも、ひょっとしたらあるかもしれないのだから。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2009年9月号掲載)