プロ野球のシーズン開幕 opening に向けてオープン戦 exhibition games が目白押しだ。良い選手がどんどんメジャーリーグに進出して国内が寂しくなるかと思えばあに図らんや、ちゃんとスター選手が現れて盛り上げてくれる。今年も注目のルーキーを追ってマスコミ the media がキャンプ spring training に殺到している。
キャンプが始まったりそれに参加したりすることを「キャンプイン」と表現しているが英語の in は前置詞であれば名詞の前に付くし、副詞であれば動詞の後に来るので camp in は単独では成立しない。このインは「入る」という動詞の地位を獲得したユニークな和製英語なのである。競争馬がゲートに入ってスタートに備えるのはゲートイン、カーレースでタイヤ交換のためピットに入るのはピットイン、テニスなどでボールがネットに当たってから相手コートに入るとネットイン。電話に直接通じるダイヤルインという方式があるが英語では direct dialing だ。
また「始める」の意味を持たせた応用版もある。ある電気通信関係のプロジェクトで日本側はサービス開始日のことをサービスイン・デイと呼んでいたが英語では in-service day だった。映画の撮影を開始することをクランクイン、完了することをクランクアップと言うのは昔の撮影機のハンドルを回し始めたり止めたりするところから来たらしい。ところが英語で crank というと、同じく時代は古いが撮影機よりも自動車のエンジンをかけるために回すハンドルが連想されるので、かえって crank up の方が勢いよく開始するニュアンスが強かったりする。
野球は間もなくシーズンイン。ファンはひいきチームの選手がホームインする score / cross the plate 姿に声援を送る。今年はどのチームがペナントを制して一位でゴールイン finish するのだろうか。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2011年3月号掲載)