英語になった日本語

 ヨーロッパの空港で乗り継ぎの時間をもてあましてふらふらしていたら Shiatsu Massage の看板が目に止まった。なるほど、日本のホテルではまってしまうビジネスマンも多いのだろう。さすがに空港では無理だと思うが鍼灸は acupuncture & moxibustion と言って灸の方はモグサからきた言葉だ。

 日本語に外来語があるように英語にも外国語からの loan words があって、日本語が語源のこともある。高校時代のホームステイ先の家庭には小型のバーベキューグリルがあって、それを son of hibachi だと教えられた時には耳を疑った。醤油の soy(a) sauce はてっきり soy beans 大豆から来ているものと思っていたらなんと逆だと聞いた時も驚いた。ついでにスーパーに並ぶ satsuma は芋ではなくみかんである。

 日本の経営や品質管理は世界でも注目を集めてきたので zaibatsu や keiretsu、kaizen、kanban あたりがそのまま国際的ボキャブラリーになるのは分かるが、salaryman が日本語から逆輸入されていたりするのはちょっと意外だ。ちなみにアメリカ人がスコシと言ったら日本人の「少し」をまねているのではない。実は skosh はすでに英語なのである。

 最近英語のメディアでは「自粛」を voluntary self-restraint or jishuku と表現していたりする。英語で説明しきれない気持ちは分かるものの、karoshi などのように定番化しないで欲しいと思ってしまう。

 文化の面では、国際的にも定着している ukiyo-e(発音はユーキヨエ)や origami、haiku 等に加えて karaoke も立派に国際語入りを果たしたが、いかにもの英語名を獲得した Happy coat 法被という強者もいる。さらに躍進著しいのが anime、manga、otaku などのニュージャンル。もともと costume play の短縮版だったコスプレが cosplay として世界中で愛好家達の間で大盛り上がりだ。ただ、たまにいわゆるB級の映画やドラマで窮地に陥りもう駄目状態のキャラクターが “Bonsai!” と叫ぶのは “Banzai!” の間違いなので、誰か教えてあげて欲しい。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2011年7月号掲載)

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