人は誰でも自分が一番快適に過ごせる comfort zone を持っている。物理的な快適要因の代表と言えば温度。 大学時代にアルバイトで、Thermal Comfort という学術論文を翻訳したことがあるが、どのような温熱環境を人は快適と感じるのか、条件を色々と変えて実験した結果をまとめたものだった。温度、湿度、空気の流れなど外的要因に加えて、体型や代謝による個人差もあり、一般に太っている人が暑がりなのは、体の体積に対して熱を逃がす体表の面積が小さいからだ。
ある時、真夏のニューヨークの空港で、数人の通訳者と冷房の寒さに震えながら乗り継ぎ便を待っている横を、半袖短パンのアメリカ人が悠然と通り過ぎて行った。皆で呆然と見送ったが、これこそまさに体型と代謝の違いのなせる業だ。
心理的な comfort zone もある。気持ち的に無理をしなくても良い楽な領域で、その内側にいる限りストレスは少ないが容易に惰性 inertia につながる。向上心とはそこから外に出ることを恐れない心のことだ。発想の面でも固定観念 stereotype にとらわれているとなかなか突破口 breakthrough が開けない。そこで常識の枠を超えた考え方 out-of-the-box-thinking が出来ると、意外な解決策が見つかったりする。あえて外に踏み出すことがきっと人生を豊かに楽しくするのだ。
今年は節電の夏でクールビズがスーパー・クールビズに進化したが、残念なことにそんな服装のお客様を迎えるホテルなどの施設の中に、未だに固定観念にとらわれて室内を超冷え冷えにしているところがある。例年、夏の方が冷房で風邪をひかないように気を使うのだが、さすがに今年は大丈夫だろうと油断していたら、会議が終わる頃には体が震えるほど冷え切ってしまった。外に飛び出すと30℃を超える気温が逆にありがたく、しばし真夏の日向ぼっこと相成った。
こんな冷房は快適でもないしエコでもない。環境省のウェブサイトにでも告発ページかなんか、設けていただけないものだろうか。・・・画期的だと思うけど。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2011年8月号掲載)