仕事帰りに立ち寄ったレストランでハッピーアワーをやっていた。夕方の店が混み出す前の時間帯に入店してもらい、通常料金の時間まで飲食を続けてもらう、あるいは回転率を上げる、と言った効果をねらったマーケティング手法で、お得感と仕事の後のほっと一息の両方がかかった happy らしい。アメリカでは70年代後半にはすでに始まっていたが、盛んになったのは80年代に入ってからで、その後いくつかの州で禁止の憂き目にあっている。もともと禁酒法時代に speakeasy もぐり酒場で始まった習慣らしいので、ぐるり巡って出発点に戻ってきたと言うことか・・・。
ハッピーは外来語として古くから定着した言葉の一つだが、日本語の辞書では幸福・嬉しい等かなりポジティブな意味で説明されている。一方英語の方はかなり幅が広く unhappy でなければ全て happy だ。ほとんど crazy に近いニュアンスで trigger-happy ticket-happy cops やたらと銃を撃ちたがる、違反切符を切りたがる警官、knife-happy surgeons とにかく切りたがる外科医、strike-happy unions 何かというとストに走りたがる労組、なんていう使い方もある。
語源は happen と同じで、偶然の出来事が幸運であったことを指していたのが、次第に幸福や楽しさを意味するようになり、そこまで嬉しくなくても満足である状態までカバーするようになった。厳しい交渉の末できあがった契約書を前に Are you happy? 「満足ですか。」返ってきた答えが苦虫をかみつぶしたような Yes だったらハッピーどころか「かろうじて」の意味だ。
少し前に別れた ex 元カノ・元カレが、振られた後の自分の misery 惨めな状況をさんざん愚痴ったあげく、いきなり Are you happy now? と尋ねてきたら「で、あなたは今幸せなの?」の可能性は低い。「こんな不幸な私を見て、さぞや満足でしょうね」の意味なので、間違っても喜色満面で Yes!などと答えてはいけない。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2012年10月号掲載)