褒められ上手、褒め上手

 クライアントへのプレゼンを終えたアメリカ人が日本人の同僚に尋ねた。 How did I do? Did I do OK? 同僚は答えた。 OK! 尋ねた方は一瞬驚き、やがて不満そうに言った。 Just OK?

 とっさに使えるボキャブラリーが少ないとついつい相手の使った言葉を繰り返してしまいがちだが、可もなく不可もなし、まあ一応こなしたね、では相手もがっかりだ。こう言う時はやっぱり盛大に褒めておくのが定石だろう。日本語でも「大丈夫だったかな?」という口調がよっぽど自信なげであれば「大丈夫、大丈夫」と励ますこともあるだろうが、そうでなければその問は「なかなか良かったでしょう?」と言う自信の裏返しだ。英語でも同様で、謙遜しているわけだから That was impressive / splendid / brilliant. くらいに盛って答えた方が良いし、発音に自信がなければ心を込めた Great! だってかまわない。褒める言葉を惜しんではいけないのだ。

 日本人には珍しく仕事の相手を自宅で接待した人がいた。立派な邸宅に加え奥方が料理自慢で素晴らしい晩餐会だったのだが、ホストであるご主人が家や調度や奥様の手料理や、何を褒められても No,no,no. It’s nothing. と答える。しまいには招かれたアメリカ人が通訳者に What does he mean “It’s nothing”? といぶかしげに尋ねる始末だ。褒める側もデザインや素材や盛りつけや、具体的に取り上げて工夫を凝らしているのに、その努力まで否定されているようで面白くなかったのに違いない。謙遜が美徳であり日本では正しい礼儀なのだと説明したが、完全には納得できない様子だった。

 こんな時は You have an eye for art! 芸術にも造詣が深いとは! I’m truly flattered. いやあ、照れますな。 Coming from you, it’s really a compliment. あなたほどの方に褒められるとは光栄です、等々、上手に褒められることも大切だ。それが相手を褒め返すことにもなる。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2014年4月号掲載)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です