会議の休憩時間に眺めのいい窓辺で雑談をしていたアメリカ人が “There’s a chopper” と外を指さした。相手の日本人女性はそれまで無難に英語で対応していたのだが、さすがに目を白黒させているので助け舟を出した。 “Can you tell if it’s an emergency HELICOPTER or a broadcaster’s chopper?” 「緊急ヘリか放送局のか分かる?」
会議終了後、難を逃れた彼女が帰り際の私に話しかけてきた。何故ヘリコプターがチョッパーなのか訝しがっている。答えはオノマトペ。あの羽がパタパタパタパタと忙しく回る様子を英語の擬音で chop-chop-chop と表現するのである。
ヘリコプターといえば空中での静止飛行、ホバリングができるのが特徴だが英語の hover には親鳥が雛を抱くとか人が誰かを心配して付きまとうという意味もあり、そこから生まれたのが helicopter parents という表現だ。よくドラえもんのタケコプターのようなプロペラを頭につけて子供のもとに飛んで行くパパ・ママ姿で漫画に描かれる。わが子の成績不振や苦境を静観できず本人やその周りにいる教師などにうるさく口を出す過保護 overparenting ぶりを皮肉る言葉だが、日本でも時々問題になるモンスターペアレント同様、揶揄する言葉ができたからと言ってそうした行動が減るわけではない。言われている本人に自覚が無く他人事だと思っていると言うのもよくある話だが、傍から見るとちょっと不思議だ。
インターネットで地図を検索していてうっかりマウスのホイールを回してしまい、いきなりある地区にズームインしてしまった。目に飛び込んできたのはたくさんのⒽマークだ。一瞬ホテルかと思ったが、どう考えてもホテルが乱立している地区ではない。そのうちⓇマークを見つけて納得がいった。高層ビルの屋上のヘリポートだったのだ。ヘリが着陸できる helipad が H で R はホバリングして救助活動 rescue ができる建物だ。ちなみに英語の heliport は空港のようにいろいろな設備が整った大掛かりな施設のことなので「マンションの屋上にヘリポートがある」のつもりで “We have a heliport on our mansion” なんて言うと「大邸宅の屋上に飛行場」と、まるで航空母艦のような家に住んでいる人になってしまう。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2014年6月号掲載)