私はよく通訳者は「季節労働者で日雇い労働者、おまけに体力勝負の肉体労働者」だと説明するのだが、ある時「日雇い」はいわゆる放送禁止用語だと教えてくれた人がいる。放送業界の自主規制により「自由労働者」と言い換えるのだそうだ。会議通訳者はほとんどがフリーランスなので間違いではないのだが、なんだかちょっと違う。化粧室 lady’s room や「亡くなった」 passed away のような婉曲表現 euphemism はどの言語にもあるし、あからさまな差別用語や悪口は聞かされるほうも不快だからある程度規制するというのも分かるが「共稼ぎ」がだめで「共働き」なら良いというのもどうもピンとこない。
PC politically correct を目指すのはどうやら近代人の常らしく、ごみ収集作業員 garbage man がいつの間にか sanitation workers になっているし、遡って第二次世界大戦中にもイギリス議会が rat catchers ネズミ捕りを rodent officers げっ歯類担当官に変更したりしている。しかしいかに他者への配慮でも行き過ぎると反発も生まれる。身体障碍者 people with disabilities が言い換えられて physically-challenged が提唱された頃から、そんな風潮を揶揄する用例が生まれ始めた。例えば vertically-challenged 縦方向にハンディを負った = short 背が低い、逆に横方向であれば fat などが良く使われていたが、中にはわざと医学用語っぽく作られた follicularly-challenged 毛根にハンディ = bald のようなものもあった。
放送禁止用語がピー音で消されることを bleep censor と言い、four-letter words など、dirty words が対象となることが多いが1920年代に初めて適用されたのは「避妊」だったそうだ。性格の悪い最低男を指す asshole もピーが被せられるが、最近消費者向けの開発が終了したといわれる Google Glass のユーザーガイドには Don’t be a Glasshole. という注意書きがあって、果たしてこれはテレビで言うと消されてしまうのか、ちょっと気になる。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2015年2月号掲載)