海外出張から帰国の便に乗る前に免税店をうろうろしていたら煙草のカートンが目についた。でかでかと Smoking Kills と書かれている。健康を損なう恐れが、とか、心筋梗塞や脳卒中の危険性を高める、なんていう生易しいものではない。喫煙は死を招くという実にダイレクトな警告だ。それでも手に取っていく人が後を絶たないところを見るとどんなに物騒な言葉にも人は慣れてしまうという事なのだろう。
ちなみに世界各国で煙草の箱に書かれた警告の文言はいろいろだが英語の表示では kills 以外に clogs the arteries 血管を詰まらせる、causes… ~の原因になるなど、容赦なく言い切るものが多い。
煙草の健康被害は医療費への負担になる。そこでオーストラリアでは2012年から plain package というパッケージの一律デザインを制度化して喫煙率を下げようとしている。ブランドごとの特徴は一切なし、若者が友達に見られたくなくて思わず隠してしまうような色と説明される冴えない色が使われ drab dark brown くすんだ濃茶と呼ばれている。もともとくすんだ緑 olive green だったのだが、オリーブ協会からクレームがつき色の名称のみ変更したらしい。欧州でも英国とアイルランドが立法化、来年あたりから制度化していく予定だ。
ところで本当に煙草で殺されそうな気持になるのは非喫煙者だ。外国人と日本の顧客を訪問した後小さなエレベーターに乗っていたら、途中階から乗ってきた二人の男性がとんでもない匂いを放っている。ぎょっとして息を止めていたら They must’ve been smoking. 「吸ってたんだね」と囁かれたので思わず They must’ve been being smoked. 「燻されてたんじゃないかしら」と答えたらむせるように大笑いされて、降りた後 That didn’t help.「あれはだめだよ」と叱られた。ふる方が悪い、と思ったが、とりあえず高層ビルでなかったのは不幸中の幸いだった。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2015年6月号掲載)