そろそろ夏本番、あちこちでビアガーデンがオープンする季節だ。蒸し暑い日本の夏をやり過ごすのに、キンキンに冷えたビールは欠かせないが、海外ではあの冷たさにはなかなか出会わない。ビール大国ドイツで飲むビールもとても美味しいがやはりキンキンではない。冷やしすぎると逆に味が分からなくなるから、とはビールをこよなく愛する国民らしい。陶器製のビアマグで飲む印象が強いが、銘柄ごとにブランド名の入った形の異なるグラスもたくさんあって楽しかった。
ドイツと並ぶビール大国チェコはピルスナー発祥の国でもある。店によってはステムの付いた丸いグラスの台座にブランド名が記された丸い紙を被せて出す。Budweiser というブランドのビールがあるが、あの薄いビールとは全く別物、しっかりとした苦味の飲みごたえのあるビールだ。チェコ人は「僕らがアメリカ人に作り方を教えたんだ」と主張していたが、ドイツ系アメリカ人が勝手に名産地の名前を使って商標登録してしまったというのが真相らしい。
昔ロンドンで3日間ほど泊まった B&B は1階に小さなバーが併設されていた。ビールを頼むと冷蔵庫の一番手前から瓶を取り出してついでくれるのだが、それが「今冷蔵庫に入れたばかりだよね」と突っ込みたくなるようなぬるさ。うだるような暑さから帰ってきたのでどうしても冷たいビールが飲みたくて Can I have an ice-cold beer? と頼んだら、明らかに移民で英語の怪しいバーテンダーが、やっぱり一番手前の瓶を取り出し、グラスに注ぐとそこに氷をひとかけら放り込んで出してきた。そう来るか…。
もともとイギリスではビールはそんなに冷やすものではなく、エールと呼ばれるアルコール度数が高めなのをちびちび飲むのが一般的なのだそうだ。冷たいビールが飲みたいときはちゃんとしたパブでラガービールを注文しなさい、と後から教わった。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2015年7月号掲載)