クラウドとは手元のPCにアプリケーションをインストールしたりデータをため込む代わりに、インターネット上のリソースを共有して使うというコンセプトだが、その歴史は意外と古く90年代初頭に WWW によるインターネットの一般への普及が始まった頃から既に存在する。Cloud computing という言葉自体は2006年に Google の CEO が使ったことで広まったそうだが、当時のITベンダー各社はそれが企業や官公庁のIT環境にとって何を意味するのかを上手に説明するのに四苦八苦していた。データが手元にないことによる不安やセキュリティ上の懸念に産業界が及び腰でいるうちに、個人向けのeメールなどが SaaS Software-as-a-Service としてどんどん普及し結果的に今のビジネスでの用途拡大をけん引したようだ。
クラウド・ソーシングやクラウド・ファンディングは cloud ではなく crowd だ。こちらはインターネット上のある場所にアクセスした大勢の人々がアイディアを共有したり、少額ずつの資金を出し合って事業の実現を後押ししたりするプラットフォームだ。
どちらのクラウドもインターネットの発展なしには語れない。その利用者数は世界人口の約半分、ネット上のウェブページの数は500億に迫るといわれるがそんな数字よりも日々の生活の中でどれだけ依存しているか考えてみるとその影響力が良く分かる。私もネット以前の生活に戻ることなど想像もできない。
初の汎用コンピュータ ENIAC が発表される1946年前後からSF作家たちは想像をたくましくして未来のコンピュータの姿を描いた。フレドリック・ブラウンの1954年の短編「回答」Answer は地球上のみならず960億の惑星上すべての計算機を接続したスーパーコンピュータに「神は存在するか」と問う話だ。厳かな声が答える。Yes, now there is a God. まるでインターネットを指しているようでちょっと怖い。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2015年11月号掲載)