The world is your/my oyster. 何とも不思議な表現だ。直訳しても意味が分からない。「この世は君/私の意のままだ」と聞いてもどうしてそうなるのかさっぱりぴんとこない。オイスターって、牡蠣だよね、酢牡蛎とか土手鍋とかの……、とついつい食べ物ばかりが思い浮かぶが、実は真珠を作るアコヤ貝や黒蝶貝などは pearl oyster と総称される。つまり上手に開ければ宝物が手に入るかもしれないのが oyster なのだ。
原典はシェークスピアの「ウィンザーの陽気な女房たち」だ。最初は剣でこじ開けるという乱暴な要素が入っていたが、今は「時間も金もあるんだから、何だってできる!」的な、いたって平和かつ楽観的な励ましなどに使われることが多い。
牡蠣に並んでポピュラーな二枚貝がハマグリやアサリの clam だろう。ニューイングランドあたりを発祥とするチャウダーが有名だ。貝のように口を閉ざすことを shut up like a clam とか、動詞として使って clam up と言うのはユニバーサルな発想だと納得がいくが、ちょっと妙なのが as happy as a clam だ。押し黙った二枚貝なら不機嫌そうなものだが文字通り嬉しくてたまらない様子を指す。
長めのバージョンでこの後に in high tide が付くとちょっと分かりやすくなる。浅瀬で潜っている時と違って満潮の水の中は潮干狩りの熊手にすくわれる心配がなくてハッピーなのだそうだ。少し開いたアサリの口がスマイルの形に見えるから、と言う少々穿った説明も聞いたことがある。
ある時 shellfish たっぷりと書かれたパスタをボンゴレっぽいものと思いこんで注文したらエビ・カニたっぷりでびっくりしたことがある。うかつだったが shell は殻のことなので貝ばかりでなく甲殻類 crustaceans も含まれるし、どうやらウニもそうらしい。そもそも fish と言いながら魚ではない、なんともざっくりとした言葉なのだった。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2016年2月号掲載)