SIMフリーの意味

お得意様の米国本社から開発担当者が来日して日本社の営業担当者と関西の代理店やユーザーを訪問するのに同行することになった。新幹線の中で年頃の娘さんと嬉しそうに LINE をしている営業部長さんが時々目をこすっては「画面が小さくて読みにくい」とこぼしている。まだ reading glasses 老眼鏡は意地でも使いたくないお年頃なのだそうだ。画面が大きなスマホにしないのも胸ポケットに入らないから。なるほど男性には男性の事情がある。娘さんとのツーショットを待ち受けにしているのが目に入ったので自撮り selfie かとからかったら娘さんが撮ってパパに送ってくれたものらしい。仲のいい親子だ。

通路の向こうでは別の社員さんが出張してきたエンジニアにガラケー feature phone から買い替えたばかりのスマホを見せながら It’s SIM-free! と宣言して驚かれている。それって新しい規格?という疑問も当然、smoke-free が煙のない、つまり禁煙(自由に煙草を吸って良いという意味ではない)だったり nuclear-free が非核(自由に持ち込んで良いという意味ではない)だったりするように「この携帯 SIM が要らないんだ!」と言っちゃったのだから。本当は SIM ロックが解かれていると言いたいので This phone is unlocked. と言う。

ところで携帯がらみでは思わず不要な心配をしてしまう表現がある。電話の向こうの相手が You’re breaking up. と言っても慌てる必要はない。「君は壊れかけている」でも「彼女と別れるんだね」でもない、電波が悪くて声が途切れがちになっているのだ。同じ理由で The reception is bad. と言いながら会場を足早に出ていく人がいてもレセプションの主催者として不安になることはない。受信状態が良い場所を探しているだけだ。

I got cut off. も勘当されたわけではなく電話が切れてしまっただけ。でも My phone got cut off. は料金が払えなくなってサービス停止されてしまったという事なので、これは少し心配した方がいい。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2016年4月号掲載)

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