世界のあちこちで想定外のことが起こり地震、事故、テロ等の脅威が高まる昨今、preparedness 万が一への備えが欠かせない。リスクマネジメント・ワークショップで講演者と通訳者の打ち合わせに同席したセキュリティ関連会社の専門家は「risk management は訳せない」と力説していた。「リスクはマネージするもの、管理と言ったとたんに範囲が狭くなる。某大学が立ち上げた危機管理学部なんて日本語にしてしまった時点で本質を分かっていない証拠」なのだそう。危機管理とは事後対応、一方リスクは未然に軽減策を取った上で起こってしまったら対応すべきものだ。
「うちのマネージャー」も背景を知らないと何をマネージする人なのかが分からない。芸能人や作家のスケジュール管理をしてくれる人かもしれないし、会社の部課長かもしれない。カントリー・マネージャーだったら外資系企業の日本社社長だ。マネージメントとなれば企業の経営陣のこともある。
動詞としてもちょっと面白い。「手伝おうか」と気遣う同僚に「自分で何とかできると思う」とやんわり断る I think I’ll manage, thank you. とか「最後にもう一杯くらいどう?」 Can you manage another beer? とかちょっとしたニュアンスを出せるのが便利だ。He messed up. と失敗の事実を述べるよりありえないほどのへまをした He managed to mess up. の方があきれた感が伝わる。
職業を茶化す cliche 的なジョークの中に有名な教師ネタがある。Those who can, do, those who can’t, teach. 才能がない人が教える側に回る。どうやらバーナード・ショーが出所らしいがウッディ・アレンがさらに Those who can’t teach, teach gym. 教えることもできない人は体育教師になる、と追い打ちをかけたこともある。MBAを取得するためのビジネス・スクール版のもじりでは Those who can, manage, those who can’t manage, teach. と言うそうだ。なるほど経営の才覚があるのならのんびり教えている場合ではない。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2017年3月号掲載)