もう何年も前の話になるが「セキュリティ」の会議をすると言うので出かけてみたら、日本側からはネットワーク・セキュリティの専門家、アメリカ側は国家安全保障の専門家が参加していて、どうにも議論がかみ合わないのを隔靴掻痒の思いで通訳したことがある。日本でITセキュリティが話題になり始めた頃のことで、運営側が人選を誤ったのか、安全保障にも深く関わることを啓蒙したかったのか、いまだに謎だが、最近ではさすがに幅広いセキュリティのどの部分を話題にするのか、と言う意識合わせ alignment にギャップを感じることはなくなった。
コンピュータのウィルス対策も国の安全保障も大事だが、自分の家の防犯対策だって大切なセキュリティだ。うちのマンションもオートロックで時間によっては警備員さん security guards が入り口で目を光らせているが、ある時不審者の侵入という事件 incident が起こった。その手口が「共連れ」。住人が鍵を開けて入った後にちゃっかりこっそり付いて行ってしまうことをそんな風に呼ぶことを初めて知った。
英語では tailgating と言う。テールゲートと言えばステーションワゴンやバンなどの後ろの荷物室のこと。昔はそれに -ing をつけると、野球場の駐車場なんかで車の後ろを開いてそこに食べ物・飲み物を並べ、試合観戦の前にパーティーで盛り上がることを意味していたのだが、そんなのんびりした時代ではなくなってしまったらしい。世知辛い世の中では車を運転していて前の車の後ろにぴったりくっついて煽ることがそう呼ばれるようになり、最近ではオフィスに入るドアに、ちゃんと自分のICカードを読みとらせてから入ることを促すために No Tailgating のポスターが貼られていたりする。
会議のさなかのテールゲート禁止もある。誰かの発言の後にすぐ自分の発言を継ぎ足すようなことをしていると You’re tailgating me. とうざったがられることがある。tailgater にはならないよう、要注意だ。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2014年3月号掲載)
しっぽ
「セキュリティ」の一言でイメージするものが時代や人によって違う、というのは、「言葉ってそういうものよね」という感じですが、そのギャップに気づかずに集まって会議しちゃった、というのはなかなかすごい話です。
「共連れ」という言葉は知りませんでした。(仕事柄、これは覚えておかなくては…と思いました。) 手口そのものは昔からよくあるやつですけどね。
tailgating の意味いろいろ(変遷)も面白いです。時代を表しているというのが興味深いですね。
しっぽについていくイメージでいうと、スペイン語のしっぽ(cola /「末尾」「行列」の意味もある)からできたと思われる colarse という動詞があるのですが、これが「パーティーなどに(呼ばれてもいないのに)勝手に参加する」という意味。私も(中学生のころ)自分の家でのパーティーにクラスメート全員を呼んだら、あるクラスメートのお兄さんの恋人の友人、とかそういう「全然知らない人」が結構何人も来て、日本にはない風習だなあと思ったものです。日本に帰る前に友人が開いてくれたさよならパーティーにも、私がまったく知らない人が大勢来ていましたし。
しっぽ
そう、会議しちゃったんです。びっくりですよね。通訳しながらずっと「これって、どうなの?」と思ってました(^_^;)
「共連れ」は私にとっても完全にニュー・ボキャブラリーで、時々意識的に思い出すようにしないと、絶対忘れる自信があります。通訳者の脳も普通に老化するんだわ(T_T)
スペイン語のしっぽ、面白いです。英語でも随行員とか下っ端・手下みたいな意味で使われることがあるけど、パーティーに付いて来ちゃうことにも使うのかな。今度調べてみようっと。そのうち「しっぽ」もコラムのネタにしようと思っていたので、調度良かった(^o^)ありがとうございました。
では、お花見でお会いしましょう!