Social engineering を普通の辞書でひくと社会工学、すなわち貧困や公害などの社会学的テーマを工学的に解決することを目指す学問分野だと説明されている。しかし同じ言葉をネット検索してみると、サイバー犯罪だの人心操作術 the art of manipulating people だのなにやら物騒な説明が上位を占める。現代のソーシャルエンジニアリングとは、だましたり他人になりすましたりしてIDやパスワードを盗み取るハッキングの手法、つまり社会と言うより社交術の方の social なのである。流行の SNS のソーシャルも同様だ。
今や私のような通訳者風情でもこれなしには仕事にならないほど日常に溶け込んでしまったインターネットだが、その商用利用が解禁されたのは1990年代半ば、たかだか20年前のことだ。同時期にWWWと GUI ベースのブラウザ、ネット対応 OS が登場し、あっという間に一般に普及した。便利なものができれば人はいろいろな使い方を考える。企業はホームページを立ち上げて自社の宣伝を始め、個人でもまだ使い方の難しかったソフトウェアを必死に覚えては情報発信をする人たちが現れた。やがてブログのプラットフォームが複数出来上がり発信は格段に容易になった。
一方向だったコミュニケーションは双方向へ、多方向へと発展する。一人のネット上でのつぶやきに友人ばかりか顔を見たこともない不特定多数の人たちが反応する。多くの人々の琴線に触れればそれはあたかもウィルスのように瞬く間 viral に広がり世界中をめぐる。インターネットは今や巨大な社交場だ。
各国で電子政府 e-Governments への取り組みが始まったのは2000年前後だが、ベーシックな情報の電子化やインフラ整備はもはや当たり前。今や米国政府等でソーシャル活用への動きが活発化しているらしい。個人レベルでつぶやいて満足している場合ではない。いかにソーシャルを取り込んでいるかで行政の効率・効果が変わり、政府の先見性が測られる。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2014年5月号掲載)