最近強いお酒の消費が減ってきているとも聞くが、それでも根強いファンを持つのがウィスキー。その発祥の地と言えばスコットランドだ。スコッチウイスキーには大きく分けてシングルモルトとブレンデッドがあるが、後者の代表格ジョニー・ウォーカーのブランド・アンバサダーと昔、何度か仕事をしたことがある。バーやホテルで催されるテイスティングの会だ。
ブレンドに使われている代表的なシングルモルトの味を覚えてもらい、最後にジョニ黒の中にその特徴を見出そうという味覚も知性もくすぐられるイベントだった。「本場ではウィスキーを生で飲まない。少量でも水を加えることで化学反応が起こり本来の香りが目を覚ます」「ワインと違い味と香りが一致するので、ブレンディングは鼻で行う nosing」など、話したくなる豆知識も満載だ。
伝統的なキルト kilt の衣装に身を包みバグパイプを大音量で演奏しながら登場した髭のおじさんが、正装では下着を付けないのですぞ、と、前列の女性の頬を赤らめさせる。そんなお茶目な彼の自己紹介はいつも「応援するサッカーチームはスコットランドと、イングランドの対戦相手」だった。楽屋裏でも「人の国の女王の首を刎ねるなんて、とんでもない蛮行だ」とまるでついこの間のことのように憤慨していたのが、1587年のメアリー・ステュアート処刑の話。昔過ぎてついていけないが、先日の国民投票で独立派が急速な盛り上がりを見せた背景には草の根レベルのこんな過去へのこだわりもあったのかもしれない。
ちなみにスコッチは蒸留後にオークの樽で寝かせることで個性が生まれるが、その熟成期間中、樽の中身は毎年2%くらいずつ蒸発していく。これを Angels’ Share 「天使の分け前」と呼ぶ。スコットランドの空にはほろ酔い加減の天使たちが機嫌よく漂っているのだそうだ。想像するとちょっと可愛い。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2014年10 月号掲載)