管理職研修のグループ演習で、日本人6人に来日間もないアメリカ人が1人混ざった班ができ、日本語はウィスパリングで、彼の英語は逐次で通訳することになった。議論は楽しく盛り上がったが、班としての結論に彼の意見は通らなかった。議長役が「皆さんこれで大丈夫ですか?」さらに彼にも Are you all right? 虚を衝かれた様子のアメリカ人に通訳者があわてて補足する。He means “Are you alright with this?”
Are you OK? も同じように間違って使われているのをよく耳にするが、いずれも「具合でも悪いの?大丈夫?」の意味だ。そんなに打ちのめされた様子に見えたのか、と彼はびっくりしたのだ。相手が日本人の英語に慣れていないとむっとされる可能性もあるので、たかだか2語だが最後の with this を忘れずに。
国際会議の最終日、お別れ夕食会で仕事の終わった通訳者と数カ国の事務局スタッフが10人ほどで同じテーブルを囲んだ。和気あいあいと裏話の交換などしている中、向かいに座った女性が少し飲みすぎたのか、他人の気に障る発言を連発し始めたが、まあ疲れていることだし、とみんな大人の対応で受け流していた。やがて卓上のワインがなくなりどれを頼もうか、と水を向けられた彼女が I’m easy. どちらでもかまわないわ、と言い放ったとたん、私の隣にいた2人の男性が小声で ”She’s easy.” と顔を見合わせにやっと笑った。それまでの彼女の様子を annoying うざったいと思っていた彼らが「尻軽だってさ」と悪態をついてこっそり憂さを晴らしたのだ。 I’m easy to please. と最後まで言えばこんな陰口を言われなくてもすんだのに、たった2語を惜しむものではない。
逆についつい余計な言葉を付け加えてしまう間違いもある。なんだか元気のない同僚に What’s the matter with you? これでは「おまえ、どうかしてるよ」と非難してけんかでも売っているようだ。相手を心配する時は What’s wrong?/What’s the matter? で止めて、間違っても with you をつけてはいけない。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2014年11月号掲載)