あんなチェンジ、こんなチェンジ

 日本人は総じて読み書きそろばんが身についているのでつり銭 change として返ってくる硬貨の数を減らそうと、860円の買い物に1010円出すくらいのことは誰でも自然にやっていると思う。アメリカで同じ発想で9ドル77セントの会計に10ドル札と2セントを差し出したらものすごくいぶかしがられたことがある。構わずレジで計算してもらうとおつりはきれいに25セント quarter 硬貨が1枚、店員さんの驚いた表情に逆にこちらがびっくりした。

 日本のおつりは札から返されその後小銭というパターンが多いが、アメリカでは逆に5ドル23セントの買い物に10ドル札を出すとまず2セント返して「5ドル25セント」と宣言し、そこにクオーターを3 枚加えて6ドル、最後に1ドル札を一枚一枚 seven, eight, nine, ten と数えながら渡して終了となる。どうやら引き算するという発想がないらしい。最近はもっぱらクレジットカードで支払うので気が付かなかったが、ヨーロッパも同様と聞いた。

 小銭の話から入ったが change と言えば変化・変革の方が一般的か。オバマ大統領の例を待つまでもなくリーダーが変わろうと呼びかけても大体抵抗にあうので The only one that cries for a change is a wet baby. 変えて欲しいと泣くのはおむつを濡らした赤ん坊だけという one-liner 一行ジョークがあったりする。

 ある外国企業のパートナー会社の担当専務は日本語と英語を行ったり来たりするので通訳者は気を抜けないが、挨拶は大体英語なのでのんびり構えていたら Did you hear that our president changed? おっと、いきなり仕事だ。虚を突かれた様子のCEOに They have a new president. 社長が交代したの、と囁いて納得してもらった。経営陣 management なら change で構わないのだが、our president が変わったと言うと「人が変わって別人のようになってしまった」ことになるのだ。ご用心。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2015年3月号掲載)

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