ベアと弩級、何の略?

大手企業でベアの高額回答が相次いだ。結構なことだ。物価ばかり上がって賃金がそれに追いつかないのでは庶民はたまったものではない。アベノミクスよりもいっそベアノミクスの方が(そんな言葉はないけれど)景気回復を実感できるかもしれない。

それにしてもベアとは思い切った省略をしたものだ。その正体がベースアップという和製英語であることを知った時にはかなり驚いた覚えがある。でも考えてみると昔からモボとかモガとか日本にはどうやらそういう伝統があったらしい。プロ野球も両リーグ合わせるとセパだ。昔はレーヨンをスフと呼んだそうだがその元となったステープル・ファイバー staple fiber は人工繊維に限らず、例えば綿でも短く切りそろえられた糸の総称だった。

これらはある意味日本語版の頭字語 acronym だが、2つの単語の最初の1音節だけを取ってつなげた例はあまり多くない。同じ2文字でもデモやデマ、スト、オペ等は元の言葉の頭だけを残した短縮形の略語 abbreviation だ。3文字以上になるとデフレ、インフレ、リストラ、アクセルなども同様だが、頭の文字を1~2個ずつつなげた例も多くなり、スマホ、コスパ、ハンスト、インパネ、ファミレスなどがある。しかも略されるのは一般的な言葉だけではない。マック、ミスド、ブラピ、キムタク、ドラクエなど固有名詞まであって、おそらく略称で定着すれば人気者という事なのだろう。

漢字の略称は政党名や省庁名、法律名など枚挙にいとまがないが、漢字とカタカナの組み合わせはちょっと面白い。まずは一世を風靡したアナ雪がそうだ。連ドラ、筋トレ、塩ビ、マル経などは元の言葉が容易に想像できるが、さて、ド級、超ド級はどうだろう。近代史ファンでもない限り、イギリス海軍の軍艦ドレッドノート Dreadnaught クラス(級)を略した言葉がこれほど独り歩きをしていることにはなかなか気づかないのではないだろうか。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2015年4月号掲載)

「ベアと弩級、何の略?」への2件のフィードバック

  1. ベア
    私が学生時代にはまだ言ってなかった(少なくとも聞いたことがなかった)のが「おきにのワンピ」(書き方がこれでいいのかどうかは不明)。「ワンピ」を初めて知ったのはたしか社会人になって10年くらいたってからだったと思います。別冊マーガレット(通称別マ)に連載されていた漫画に出てきたのです。そんな省略をするんだ、とびっくりしましたね。で、「おきにの」。こっちはさらにもう少し後で知った気がするのですが、「お気に入りの」がこんな言い方になるなんて…とこれまたびっくり。
    かわいい言い方なのでイヤではないですけどね。

    「ベア」は私も昔、同じように驚きました。そんな省略って…って口あんぐりでした。不況で長い間聞かなかった言葉ですが、去年くらいからまた耳にするようになりましたね。1999年10月の減額からずっと報酬が変わっていない法廷通訳(公判の分は、です。接見はその後さらにぐんと報酬ダウン)なんぞやっていると、「ベア、うらやましいなあ」って感じですが。以前は毎年7月になると通訳料が50円か100円だけ上がっていたんですが、1999年の報酬減額騒ぎすらまったく知らない人が増えた今、90年代前半にはあった「法廷通訳の『ベア』」(?)はもはや知る人は皆無じゃないかと思います。

  2. ベア
    自転車操業続きでブログのケアを全くしていませんでした。ごめんなさい。

    「おきにのワンピ」は聞いたことがあります。結構マンガっ子だったかもしれません。「あけおめ」を初めて見たときはちょっと驚いた覚えが…。でも「ベア」を超えるぶっ飛び方はなかなかありませんね(笑)

    法廷通訳の処遇が改善されないのは、国際化を逆行しているとしか思えません。これからもっと必要になって、しかも質の担保を求められるようになるのは必至です。

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