今年の干支、動物園の人気者で物語の主役や脇役でも大活躍、姿かたちが人間に似ているお猿さんは諺や慣用句にも頻繁に登場する。晴れた空から降る雨を南アフリカでは狐の嫁入りならぬ monkey’s wedding と呼び、ポーランドでは自分には関係ない It’s none of my business. を Not my circus, not my monkeys. と言うそうだ。檻から逃げ出し好き放題に暴れまわる猿たちの姿が想像できて面白い。
日本語では猿知恵、猿芝居など愚かさの象徴みたいに使われる事が多くてなんだか可哀想だと思っていたら英語にも a monkey in silk と言うスペイン語圏発祥の表現を見つけた。表面をどう取り繕っても所詮猿に烏帽子という事だ。猿まねに当たる英語もある。 Monkey see, monkey do. 文法的に変である。あえて正しく言おうとすれば What a monkey sees, it does. とでもなろうか。でもこれではオリジナルの持つリズムやちょっと可愛らしいたどたどしさが台無しだ。
このブロークンイングリッシュは Pidgin ピジン語と言って、アメリカの先住民や欧州に貿易にやってきた中国人との意思疎通を容易にするために簡略化して作り出された言葉だ。中国人の発音で business が pidgin に聞こえたのでそう呼ばれるようになったという説がある。他にも long time no see 「久しぶり」はおなじみだと思うし no can do 「絶対無理」 no go 「取りやめ」など、スタンダードな英語の中に溶け込んでちょっとしたスパイスになっている。
最後に今年の主役をもう少し立てておこう。定番の見ざる聞かざる言わざる see no evil, hear no evil, say no evil の三猿は日光東照宮の彫刻があまりにも有名なので日本独自のものかと思われがちだが、実はアンコールワットや古代エジプト起源説まであって発祥は不詳。いろいろな文化圏で用いられるモチーフで英語では3匹合わせて three wise monkeys と呼ばれ、ちゃんと知恵があることになっている。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2016年1月号掲載)