ロシアの目立ち方

アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたIcarus「イカロス」に登場するモスクワ・ドーピング検査所のグレゴリー・ロドチェンコフ元所長はロシアの国ぐるみのドーピングの黒幕mastermindで、何と学生時代からperformance enhancing drugスポーツ選手が使う違法薬物を作る研究をしていたという筋金入りだ。身の危険を感じて国外に逃亡中の彼がインタビュー番組にメイクで変装しシャツの下に防弾チョッキを着こんで出演しているのを米国出張中に偶然目にしてしまった。

その説明によるとソチ五輪のドーピング検査を行っていた施設ではセキュリティゾーンとノーマルゾーンが隣り合っていて、境界線にある二つのラボの壁には検体容器を通す穴が開けてあった。普段はキャビネットで隠されていたというなんとも原始的な建物側の仕掛けと、世界ドーピング防止機構WADAが誇るtampering-proofいったん閉めたら絶対開かず壊すしかない検体ボトルの開け方を開発してしまったロシアの「天才」達の組み合わせで、前代未聞の規模の不正が行われたのだと言う。

結果、過去最多のメダル獲得数で日本中が大いに盛り上った平昌五輪でもvisibly absentその不在がなんとも目立ったのがロシア国旗だった。国自体の資格停止に個人資格で出場できた選手たちはオリンピック旗を代わりに背負いながらどんな思いでいたのだろう。不正を働いて手に入れたメダルにその国はどんな価値を見出していたと言うのだろう。

2年前に行ったモスクワは壮麗な伝統建築と近代的なビル群が隣り合う明るい街でそこに住む人からも共産主義の暗いイメージなどもはや感じなかったのだが、その後、その時のホストである業界団体が呆れたことに会費の不払いですったもんだの挙句国際組織のメンバー資格を失ってしまった。大統領が国を挙げての不正を指示する国ではどうやらまだ世界の常識は通じないらしい。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2018年3月号掲載)

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