「いつか来る」と言われ続けてきた新型インフルエンザ。ここ何年もその大本命はH5N1型鳥インフルエンザavian fluだったがそれを抑えていきなり表舞台に現れたのがH1N1型豚インフルswine fluとは、とんだダークホースだ(豚だけど・・・)。ウィルスを無力化neutralizeすることをうたったプラズマクラスターのメーカーから技術検証を依頼された英国の研究者が、その結果を発表するため昨年夏来日したが、その時の話題も強毒性のH5N1一色だった。
コンピュータの世界にもメールやファイル共有で感染して悪さをするウィルスや、自己増殖して広がっていくワームなどが存在するが、それとは性質の異なるウィルスもある。その名もバイラル・マーケティング。viralはvirusの形容詞形だ。
今や最大の広告媒体は新聞・雑誌でもなければテレビ・ラジオでもない、ウェブだ。その手法がバナー広告に限られていた頃は効果を疑問視する向きも多かったが、やがて検索連動広告から収益をあげるGoogleのビジネスモデルが成功、さらに広告効果を測定する方法や従来の媒体とは全く異なる広告手法が開発される。そして今最小限のコストで当たれば大きいと注目されるのがSNSや掲示板での消費者の口コミを利用しようとするviral marketingなのだ。企業から発信される情報よりも自分と同じ立場の消費者が発信する情報を信頼したくなる心理をよく突いている。ただ、企業からインセンティブをもらって情報発信している一般人がたくさんいるので、受け取る側も過信は禁物、ウィルスだけに感染には要注意。
ところで通訳業界にはしばしばドタキャンが発生する。2003年春のSARS騒ぎではたくさんの会議が取りやめや規模縮小となったが、今回も新型インフルエンザが原因で講演者が来日を見合わせ、通訳が必要なくなってしまった会議があった。そんなキャンセル案件を、私たちは「ブタキャン」と呼ぶ。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2009年7月号掲載)