一部回復の兆しが見られるものの、まだ弱々しい世界景気。日本にいたってはデフレ経済に陥る中、小売業界も何とか消費の口実になるようなイベントが欲しくて仕方がない。そこでこの冬にかけて目立ったのがハロウィン。行きつけのスーパーでもかぼちゃをくりぬいて作るお化けの Jack-o’-Lantern を始めとするハロウィン・キャラクターのお菓子やディスプレーに加え、レジのお姉さんたちが魔女の帽子をかぶるという力の入れようだったがそれも10月31日まで。翌日からはあちこちでいきなりクリスマス・モードだ。アメリカに長く暮らした通訳者は「早すぎてついていけない」とげんなりしていた。それもそのはず、アメリカには感謝祭 Thanksgiving Day というクッションがある。
アメリカの感謝祭は11月第4木曜日だが、その翌日の金曜日は Black Friday と呼ばれる。語源は19世紀に始まる市場大暴落が起こる魔の金曜日だが、最近ではこの日こそクリスマス商戦の初日。小売店が早朝(本当に朝も暗いうち)から店を開け、目玉商品 doorbusters 目当てに消費者が殺到するのだ。目抜き通りは大渋滞で、その対応に追われる警察が苦々しい思いで使ったのが1960年代のこと。今ではそれまで赤字だった小売店の商売が黒字に転ずる日だと説明されている。 さらに週明けにはオンライン・ショッピング・サイトの多くがセールを始めるので Cyber Monday と呼ばれる。
どうして週明けまで待つのか? この言葉が出来た当時、まだブロードバンドは家庭まで普及していなかった。感謝祭の週末、普通の店舗型 brick & mortar 小売店でさんざんウィンドウ・ショッピングをした消費者が、月曜日に出社するなり家より接続の早い会社のインターネットで e-Commerce サイトにアクセスした名残だという。今や家でも高速インターネットは当たり前、それにショッピング・サイトにアクセスさせてくれるようなのんびりとした会社があるとも思えない。
古き良き時代・・・? たった5年前、2005年の話である。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2010年1月号掲載)