海外トラブル フランス編

 昔々、日本の景気がまだ良かった頃、日本のお客様は通訳者を海外に同行させた。海外在住で「使える」レベルの通訳者がとても少なかったからでもある。最近は欧米での調達も不可能ではなくなったので、通訳者の海外出張は一時期に比べるとかなり減っている。それでも年に数回は私も海外で仕事をする。せっかくなのでその前後に数日観光することもある。

 10年ほど前、日本から直行便のないジュネーブでの仕事のために数日早くパリに飛んだ。美術館巡りなどしながら時差を解消し、いざ移動という朝、CNNが Paris is paralyzed!「パリがマヒしています」と言うのにぎょっとした。公務員や交通機関の大規模ストだ。残念ながらフランス語の出来ない私は事前にその情報を得ることが出来なかったのだ。ちなみに今は2006年から始まった France24 と言うチャンネルが英語でニュースを流しているが、当時はそんなのもなかった。

 ウェブサイトで確認すると予約した便が案の定、欠航になっている。まだサイトもプリミティブでウェブ上での予約の変更なんて出来ない時代。同じ目にあった人たちからの電話が殺到しているのだろう、航空会社の電話番号に何度かけても通話中でいっこうにつながらない。さあ、困った、どうしたものか?

 手元の情報源はダイアルアップで超スローなインターネットと数冊の旅行ガイドのみ。航空会社の支店を見つけて歩いていくか、と覚悟を決めてぱらぱらとめくってみると、その1冊にエールフランスの日本語対応の電話番号が小さく載っている。これだ!とひらめいた。きっとオペレータは一人しかいないだろうが、日本人のほとんどはパッケージ旅行で来ているはずなので、この番号が混み合うわけがない!これこそ天啓とかけてみるとあっさりつながり、数時間遅れたものの、運行する便へ変更できたのだった。

 こんな綱渡り、もちろん最初で最後のわけがない。海外でのはらはらどきどき、次号もおつきあいいただきます。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2011年11月号掲載)

「海外トラブル フランス編」への1件のフィードバック

  1. Unknown
    こんばんは。
    現代は、色々な面で便利になりましたね。
    でも、不便なときのほうが、
    人間てフルに頭を使いますよね。
    どっちがいいのでしょう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です