とある業界でそこそこ有名な教授の講演後、懇親会で少しお酒が入って口がなめらかになった日本人男性が先生に近づき英語で話しかけた。礼儀正しく名刺を交換したまではよかったが、その後通訳者は思わずギョッとする。この高名な先生に向かって “You’d better…” を連発し始めたのだ。
「こういう事例も検討されたらいかが」と建設的な進言をしていらっしゃるつもりなのはその表情からも明らかなのだが、いかんせん “You’d better…” はどんな言い方をしようと上から目線。母親が子供に “You’d better hurry!”「ほら、急がないと!」上司が部下に「すぐ謝った方がいいな」もしくは自分のことを “I’d better run.” それを聞いた友人が “Yeah, you’d better.” 逆さにして振ったって「されたらいかが」の謙譲の気持ちは出てこない。「~した方がよい」と教える中学校英語の弊害である。
“Have you ever thought of…?” も相手の能力を疑っているようで失礼だ。こういう時は ”It may be interesting to…” のように婉曲的な言い回しを使うと相手の気持ちを害せずにすむ。
いつだったか ”You Americans …, we Japanese …” を連発される方もいた。敬語があるつもりで直訳するべからず。「皆様のような米国の方は私ども日本人とは違って~」と言いたくても「あんた達アメリカ人は我々日本人と違って~」と聞こえてしまう。
表敬訪問に訪れた先で、先方の重役が満面に笑みを浮かべて “Sit, sit.” それでは犬に命じる「お座り」だ。”Please, have a seat.” とおっしゃっていただきたい。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2008年1月号に掲載)