固有名詞の華麗なる変身

 昔、ソニーにつとめている人が「他のメーカーのものまでウォークマンと呼ばれる」と不満そうにもらしたそうだが、実は内心自慢だったに違いない。アナログ時代であったとは言え携帯型音楽プレーヤーの代名詞だったのだから。つい「パナソニックのウォークマン」と言ってしまった経験のある人は少なくないはずだ。このように一般名詞化するのはある意味ブランドにとっての勲章だろう。

 うっかりすると気がつかないが「宅急便」もヤマトの商標で、一般名詞は宅配便だ。英語ではcourierと言うが、時に”Fedex it for me”「送っておいて」とか”It’s been DHLed to you”「発送しました」のように、固有名詞がそのまま動詞で使われることがある。また、日本語で「ググる」と言うのと同じように、googleは英語でも検索するという意味の動詞になる。”I was googling around last night to find…” と本家本元googleのエグゼクティブが言っていたが、ライバル各社では眉をひそめられてしまうかも・・・(そんな時は browse the web や search を使おう。)Velcroもマジックテープの代名詞だが、「マジックテープでとめる」という動詞にもなる。

 一般名詞や動詞にまでなってしまうのは、知名度もさることながらその分野で初めての製品やサービス first-to-market である場合が多い。Kleenexはティッシュペーパーの、Xeroxはコピーの代名詞だ。こうして変身を遂げると実物よりも寿命が伸びる傾向があるが、不老不死というわけでもないらしい。

 量販店のデジタルメディア・プレーヤーのコーナーでカラフルに並んだウォークマンを見て女子高生がはしゃいでいる。「あ!これ、ソニーのiPod!」 私はどうやら世代交代の瞬間を目撃したようだ。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2008年6月号に掲載)

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