「ワークする」とワークの未来

 最近立て続けに日本語で「ワークする」と言うのが使われているのに遭遇した。まず「このストラテジはボラの高いマーケットでもワークするのか」と言うはたして日本語かどうかも怪しい証券マンの発言。Does this strategy work in a highly volatile market? と訳しやすいのはありがたいが、日本人に十分伝わるのかといらない心配をしていたら、本屋で「ワークする〇〇戦略」という書名を目にして、どうやら一部では市民権を得ているらしいと納得した。唯一気になるのは「想定通りに機能する」とか「結果を出す」「うまくいく」と言う日本語では駄目だったのかしらという点だ。

 今年に入って増えたと感じる会議や講演のテーマが Future of Work だ。日本の働き方改革は減少する労働人口を現在労働市場に出ていない潜在労働力でどう補おうかという話が中心のようだが、ILOやコンサルタント会社、海外メディアがもっぱら心配しているのはAIやロボット、RPA=デジタル・レイバーにより人間の仕事が奪われてしまうと言う未来だ。

 代替されやすい仕事トップ20なんていうリストの中にはたまに通訳が入っていたりする。確かに機械に辞書を覚えさせるのではなく、膨大な量の翻訳例を覚えさせてそこから正解である確率の最も高い解を見出させるというマシン・ラーニングをベースとする Google 翻訳のここ数年の精度向上は目覚ましい。私も自分が読めない仏語や独語の資料をあっという間に英語に翻訳してもらって、たいそう重宝している。

 でも、日本語が絡む通訳はしばらくは大丈夫だろうと思う。と言うのも、そもそも文法的に正しい日本語を話せる日本人が少ないことと、文法からの逸脱パターンが人それぞれで一般化できないことを日々痛感しているからだ。ちなみにさっきの証券マン氏の発言を Google さんは Does this strategy work even in the high market of Bora? と英訳してくれた。惜しいっちゃ惜しいんだが、これではまだ通訳の現場では使えない。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2017年10月号掲載)

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