最も高くて硬い glass ceiling をヒラリー・クリントン氏は再び割り損ねた。民主党の指名を得られず少なくとも1千8百万のひびは入ったと支持者に感謝して以来8年越しの思いは、米国民の格差への不満という壁を突破することができなかった。
女性の昇進を阻むシンボルとしてガラスの天井と言う言葉が初めて使われたのは1984年、その2年後には Wall Street Journal でも取り上げられるなどして浸透していったようだ。その存在に気付かずに出世の階段 corporate ladder を登り続け、ある日それ以上進めなくなる。すぐそこに見えている次のポジションにどうしても手が届かないもどかしさが良く出ている。
日本の現政権は一億総活躍社会を唱えて女性の社会参画を後押ししたいとしているが、夫婦別姓やLGBT権利擁護への与党に根強い反対論には伝統的な男性観・女性観に縛られている感がありありで、女は腰掛け mommy track でいいじゃないのとの本心が透けて見える。一方民間では企業の社会的責任CSRの一環として diversity を標榜する動きが広がっている。外資系ではLGBTサポーターバッジを配布したり、日本企業でもインクルージョンやワークライフバランスなどをサイトで前面に押し出しているところも出てきた。
そんな会社でもいざ役員会の通訳で駆り出されてみると会場はネクタイとスーツで真っ黒けっけで「看板に偽りありじゃん」 Hey! Walk your talk! と突っ込みたくなることもしばしばなのだが、そもそも女性活用 women’s empowerment 大国である北欧諸国だって実は上層部の女性はまだまだ少ない。世界に先駆けて国会議員に次いで企業の役員にもクォータ制を導入したノルウェーでさえ大企業の女性CEOの割合は5%に達しない。一朝一夕に変わるものではないことが良く分かる。
ただし役員全体に占める女性の割合は35%を超え日本の3.4%とはケタ違いであることだけはノルウェーの名誉のために付け加えておこう。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2016年12月号掲載)