諺の鳥や虫

諺を外国語に訳すのは難しい。ぴったりはまる表現があれば定番として使うことが多いのだが、それでも「早起きは三文の徳」を The early bird catches the worm. と訳して「わしは鳥なんぞと言っておらん」といわれのないお叱りを受けた通訳者も存在する。どうやらバードは聞き取れてもワームは分からなかったらしいのだが、いずれにせよこの後の話の展開で「得」ではなく「徳」である理由を掘り下げられても面倒なことになるので最近は時間が許せば直訳 Getting up early is 3 cents worth of virtue. も紹介したりする。文化的背景の違いが垣間見えて面白いと割と好評だ。

「出る杭は打たれる」も The nail that sticks out gets hammered down. というほぼ直訳で十分に通じる。ちなみに同じようなことをオーストラリアでは tall poppy syndrome と言うそうだ。花畑で他よりも長く茎をのばしてしまったポピーはその首をちょん切られるのだそうで、どちらも痛そうだ。

鶏口牛後には色々とバリエーションがあって Better to be the head of a dog than the tail of a lion. 以外にも蟻とライオンの組み合わせで大小の違いを強調するものやロバと馬のように敢えてちょっと近い二者を並べるものもある。イタリア語では猫対ライオンとなかなかロジカルだ。そこで a roosterとan ox で代替しても全く問題なく通じるわけだ。

「一寸の虫にも五分の魂」には Even a worm will turn. という、芋虫・ミミズの類でも踏まれれば怒って反撃に出ると言うぴったりの成句があるのだが、私がそれを使ったのを聞いていた後輩が「そっちの虫だったんですね」と言い出したことがある。何となく蠅とかテントウムシとか脚のある方 insects を想像していたらしい。でもね、一寸は3センチくらいだから昆虫だとするとカブトムシやクワガタの雌とかスズメバチ、ゴキブリ……、まで来たあたりで言い出しっぺが悲鳴を上げた。初めてその大きさに思い至って急に気持ちが悪くなったらしい。一寸の昆虫はけっこうでかい。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2017年2月号掲載)

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