和製英語にご用心

 学生の頃講師をしていた学習塾では、小学5年から英語を教えていた。始めての英語の授業にワクワクしている子供達に「英語の食べ物」を尋ねると、レモンやケーキの間にピーマン(green pepper)やハンバーグ(hamburg steak)が混ざりだし、そのうち必ず「シュークリーム!」と叫ぶ子が出てくる。思うつぼ。「英語でシューは靴だから、靴クリームになっちゃうよ!」どっと笑う子供達に正しい呼称のcream puffや、a shoeとshoesの違いなんぞをおもむろに教えたものだ。

 氾濫するカタカナ語に眉をひそめる向きもあるが私はそれも立派な日本語だと思っている。異なる言語の間に交流が生まれ互いに影響を及ぼすのは決して今に始まったことではない。外来語であることが分かるように大和言葉とは別の表音文字を使うことを選択したのは、とても独創的な工夫だと思う。唯一問題があるとすれば、英語だと思いこんで間違って使ってしまうことだろう。

 海外のホテルでパソコンを使いたいのだがどこにつないで良いのか分からずフロントに電話をかけたビジネスマンが”Where is a コンセント?”残念ながらこれは通じない。電話では埒があかず部屋まで上がってきてくれたコンシェルジュが”Ah, an outlet!”

 ベンチャー・ビジネスも立派な(?)和製英語だ。venture businessと言ったらventure capitalのビジネスのことだと思われる。正しくはstart-up (company)、大学発ベンチャーならuniversity spin-off、創業して何年もたっているならniche player、ベンチャー精神はentrepreneurship、流行の社内ベンチャーはin-house business ventureとかspin-off candidateなどが通じやすいだろう。

 スタッフも少々ややこしい。部下を紹介しようとして”She’s my staff.”と言ったら部下が一人しかいない可哀想な上司になってしまう。誤解を避けるには”She’s a member of my staff (team).”あたりをどうぞ。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2008年8月号に掲載)

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