思い込みは禁物

ずいぶん長く教えている通訳学校で、ある時「betterはどんな場合でもgoodより良い」と思いこんでいる生徒がいて、難渋したことがある。中学校で習ったgood-better-bestの活用がしみついているのだろう。でも、部下の報告書を見て”This is good!”と言えば手放しで褒めたことになるが、”This is better.”では、前回の報告がよほどひどかったように聞こえる。

 最近は外注と言わずにアウトソーシングと言うことが増えてきた。IT分野のリサーチ・コンサルティング会社のガートナーが毎年開いているソーシング・サミットも今年で5年目を迎え、どうやら成功の方程式 best practice も次第に確立されつつあるようだ。受託企業のことをoutsourcing company、service providerもしくはoutsourcerと呼ぶ。「outsourceをする委託側こそoutsourcerで受託側はoutsourceeであるはずだ」というもっともらしい主張を時々聞くが、だいたいが英語圏外の人たちだ。licenser-licenseeが頭にあって思いこんでしまうのだろう。

 でも、言葉は生きている。

 思いこみは禁物なのだ。どうしても腑に落ちない方はまだ外注と言っていた時代、contractを受ける受託企業がcontractorで 、contracteeではなかったことを思い出していただけると納得がいくかもしれない。

 ショッピング中の若いお嬢さんがふわふわのスカートを見て「まあ、ボリューミー!」こんなあからさまな間違いは論外だが、riskがriskyになったりspiceがspicyになったりするので、ついつい思いこんでしまうこともあるのだろう。

 ある日本の自動車メーカーで、新車種の車内がゆったりしていることを海外メディアに紹介するのに、スペイシーを連発される方がいたのには困った。正しくはroomyかspacious。spacyだとぼ~っとしたお馬鹿さんのことになってしまう。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2008年7月号に掲載)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です