気になる腹回り

 英国の国際経済誌The Economistのアナリスト事業部門EIUが定期的に行っている経済見通しの説明会が開かれたのは、よりによってリーマン・ブラザーズの破綻が報じられた翌日で、いつもより広い会場を用意したと言うことだったが立ち見が出るほどの大盛況だった。人生でもっともドラマチックな週末だったと切り出したエコノミストは、六本木ヒルズにあるリーマンのフロアでは夜通し煌々と明かりがともっていたと溜息をついた。新聞やオンラインメディアではbelly upの見出しが踊っている。bellyはベリーダンスでおなじみ「腹」のこと。死んだ魚が腹を上にして浮かぶ様子からbankruptと同様、破綻・破産を意味する。

 日本語でも腹はへるばかりでなく、立ったり据わったり、切られたりくくられたりと忙しい。中には一物抱えた腹hidden agendaまであるが英語でも大活躍だ。An army marches on its stomach.と言えば文字通り腹がへっては戦は出来ぬ。The belly has no ears.空腹の人に何を言っても腹には落ちない、衣食足りて礼節を知る。バイキングで食べきれないほどお皿を山盛りにしている人がいるがThe eye is bigger than the belly.でついつい手が伸びてしまうのだろう。この表現、「別腹なの~」という言い訳にも使えそうだ。

 腹は誰にだってあるものなのにあえてHe has a belly.と言ったら、最近気になるメタボ腹。今年の4月から健康診断で腹回りを計るようになったのは内臓脂肪型肥満の目安になるからだ。これに加えて高血糖、高血圧、脂質異常のうち2つ以上があてはまるとmetabolic syndromeと診断される。syndrome Xとも呼ばれ動脈硬化や糖尿病になる確率が高くなる。「最近メタボが気になって」のつもりで”I’m metabolic.”と言って怪訝な顔をされている人がいたが、それもそのはず、これでは「私は代謝しています」としか解釈のしようがなく、聞く側も「私は生体として機能しています」と言われたのと同じ反応しかできない。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2008年10月号掲載)

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