2010年フランスの旅 -3-

パリに着いてからもBBCワールドやCNNの天気予報は連日雨だと言い張っている。日曜日は特に大雨だと言うのでモンサンミッシェルは月曜日にしてみた。ところが到着翌々日の土曜日はいきなり快晴となった。しめたとばかりにこの日はベルサイユに出かけることに。

パリ近郊はイル・ド・フランスと呼ばれモンパルナス駅では発着ホームも切符売り場もTGVとは異なる階にある。自動販売機で切符を買ってベルサイユ・シャンティエ駅に向かった。ちなみに地下鉄もそうだが自動販売機の画面には良く探すとユニオンジャックの旗印があって、それを押すと英語の表示に変わるのでフランス語がちんぷんかんぷんでも大丈夫。それに1.9ユーロのような少額でもクレジットカードが使える。

本当はPERのベルサイユ・リブ・ゴーシュ駅の方が宮殿には近いのだが、せっかくなのでモンパルナス駅でいろいろと試してみたかったのだ。たまたま快速に飛び乗ったので途中どの駅にも止まらず15分くらいで着いてしまった。ただ問題はこれからだ。


(ベルサイユ・シャンティエの駅)

インターネットで入場券を買っておけば良かったのだが、何せ天気が心配でどの日にすれば良いのか決められなかったので、様子を見ながら現地調達だと覚悟を決めてきた。しつこいようだがこういうところの観光はお天気で印象が大きく変わるのである。めったにない機会だから多少の出費や不便は我慢する。

シャンティエから歩くことしばし、リブ・ゴーシュの駅前まで来るとツーリストセンターの前に再び長蛇の列。それでも宮殿の切符売り場よりはこちらのほうが早いらしいのであきらめて並ぶことにする。所要時間1時間強、手数料2ユーロを足して27ユーロのパスポート(宮殿、庭園の噴水ショー、トリアノンと呼ばれる二つの離宮すべて込みのチケット)をゲットして、いざベルサイユへ! と角を曲がったところで、あれ? ・・・・・・ここにもツーリストセンターが・・・・・・。列は明らかにさっきのところより短い。こっちのほうが早く買えたのか? 今となっては確かめようがない。

ベルサイユは人気の観光地なのでチケットを買った後も入場に長い列が出来る。午前中は1時間くらいかかるらしい。午後になるとすくのでまずトリアノンのほうを見てから宮殿に入ると良い、というツーリストセンターのお姉さんの助言に従うことに。

宮殿の裏手に回るとそこには壮大な(本当に想像を絶するくらい壮大な)庭園が広がっていた。(まだ続く)

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2010年フランスの旅 -2-

      
出発前の数日は何故かいろいろと立て込んでしまい、事前に完全な準備が出来ないことが多い。今回もとりあえずホテルと空港からの足だけ確保できれば、あとは現地で何とでもなるとのんきに構えていたせいでもある。空港からはエアポートシャトルを利用してみることにしてインターネットで予約をして行った。

到着したら荷物をピックアップする前に公衆電話からフリーダイヤルの番号に電話をするよう指示するメールが来ていたのでかけてみる。場所を指定され荷物を持ってそこで30分ほど待つが現れない。再び電話をすると「5分で行く」とか言う。さらに待つこと30分、さすがにクレジットカード詐欺ではあるまいかと心配になり始め、4度目の電話をかけているところに私の名前を書いたカードを持ったドライバーが現れた。その後も3箇所で乗客を拾ってようやく市内に向かう。相乗りするからタクシーよりも安いのだが時間が大切な場合には向かない。それに電話の向こうのおじさんも、1時間かかるならそう言って欲しい。分かっていればそれなりの時間の使い方があろうと言うものだ。

ホテルはモンパルナスのガイテ通りにある。部屋が思ったよりも広くてきれいなことに満足しつつ、近所を少し歩いてみることにした。カフェ、レストラン、シアター、怪しげなDVDショップ(中で鑑賞するらしい)などが並ぶ通りはそこそこ賑わっている。長旅で疲れてもいたので、最初に見つけたプチ・マルシェで水やビールなどを仕入れてこの日は終了。

翌日は一日中曇りでさらに夕方雨が降るという残念な天気。予報どおりか、とがっかりしながらまずはモンパルナスの駅でモンサンミッシェル行きの切符を手配することにする。私の買った2冊のガイドブックでは説明されていなかったのだが、フランスの鉄道SNCFではTGVとバスを組み合わせたモンサンミッシェル行きの切符を買うことが出来る。ルートは2種類、TGVでレンヌまで2時間、そこからバスで1時間20分、もしくはTGVでドル・ドゥ・ブルターニュまで3時間、バスで30分。どんなバスか分からなかったので列車の一等のほうが快適に違いないと思い、ドル経由で行くことにした。海外の知らない駅に行くと窓口で切符を買うという何でもないことでも小さな冒険のようで達成感がある。(7月4日からはスケジュールが変わるらしい。)

その後、曇り空をにらみながらメトロでシテ島まで行ったのだが、サント・シャペルの入り口は長蛇の列。それに恐れをなしたのに加え、ここはステンドグラスが有名なので曇りでは感動が少ないかもと自分に言い訳して出直すことに。駅の出口から伸びるフラワーマーケットでプラントやかわいらしいお土産を見ながらをぷらぷらしていたら、結構本格的な雨が降ってきた。潮時かな、と切り上げて帰ることに。

この日は、ホテルの近くで見つけたモノプリ(衣料品や文房具なども扱うスーパーマーケットのチェーン)で部屋のアメニティになかった箱入りのティッシュ、化粧コットン、ちょっとアバンギャルドなストッキングやお土産によさそうな文房具などもゲットして、そこそこ満足。(さらに続く)


カラフルな文房具たち

2010年フランスの旅

海外で会議があるとき、前後に数日間観光を入れることがある。去年は3回の出張のうち、最後のバリ島だけ3日ほど早めに現地に入った。ホテルのスパでマッサージを受けたりプールサイドのパラソルの下で水着でペーパーバックを読んだり、ひたすらだらだらと過ごして大満足だった。

定例の春の会議が今年はフランスのエビアンで行われることになった。最寄の空港はジュネーブだが日本から直行便はない。そこでエールフランスでパリまで飛んで、少し遊んでから現地入りすることにした。

始めてパリを訪れたのは8年ほど前。オルセー美術館で丸一日過ごして、赤い特急タリスに乗ってアムステルダムの知人を訪ね、パリに戻ってさあもう1日美術館めぐりをしようと思ったらCNNで「パリが麻痺しています」のニュース。美術館から公共交通機関から航空会社の一部までゼネスト。フランス語が分からないとこういうことの情報が事前に分からなくて困る。歩いて回れるところだけ観光しても良かったのだが、インターネットで調べると乗るはずのジュネーブ行きのフライトがあおりを食ってキャンセルになっている。それを何とかしなくてはいけなくて、結局ホテルの部屋にこもって過ごすことになった。

2度目は確か4年前だと思う。いろいろな美術館、博物館にスムーズに入れるカルトミュゼというチケットを買ってルーブルやらオランジュリーやら手当たり次第に美術館めぐりをした。メトロも回数券を買って使い方にもすっかり慣れた。そのメトロの車内に “Do you speak English? … Speak Wall Street English!” という英会話のポスターが(破られもせず)貼られていて、しかも明らかに英語を話してくれるパリジャン・パリジェンヌが大幅に増えていて驚いた。

そして3度目となる今回の目的は世界遺産。モンサンミッシェルとベルサイユ宮殿を制覇したい! ところが日本を出る前の天気予報では、滞在期間中ずっと雨の予報。以前ミュンヘンからノイシュバンシュタイン城へのバスツアーに参加した時、ずっと曇りでお城に到着した頃には大雨になり、場内の見学も外からの光が入らないのでなんとも暗い雰囲気で「天気は大事だ」と痛感したことがある。とても残念だが航空券もホテルも予約済み、ええい、ままよ! の気分で出発した。

ところが到着してみると、本当に雨が降ったのは翌日1日だけで、あとはすばらしい快晴になり、私は心の中で快哉を叫びながらいそいそと今日はベルサイユ、明日はモンサンミッシェル・・・と美しい春のフランスを満喫することになったのだ。モンパルナス駅の近くに宿を取ったのも想像以上の大正解だった。 ・・・それにしてもこれほど外れる天気予報に何か意味があるのだろうか? (続く)

嘘ついたら針千本

 子供の頃何かを約束する時に「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます、指切った」という囃子歌を歌いながら指切りをしたことはないだろうか。針を千本なのか魚のハリセンボンなのか諸説あるようだが、飲みたくないことには変わりない。

 英語には “I’ll eat my hat if…” のように、違ったら帽子を食べるという表現がある。チャップリンの『黄金狂時代』には靴を食べる有名なシーンがあるが、さすがに帽子は食べなかったと思う。実はこのhatは帽子のことではないという説がある。昔、卵、ナツメヤシ、塩、サフラン、子牛肉を主な材料とする恐ろしくまずい料理があってその名も hattes、嘘をついたらそれを食べると誓っていたのが、いつの間にか帽子にすり替わったのだとか。

 いずれにせよ自分の主張の正しさを帽子に賭けて誓うというのは納得がいく。色々な制服にも現れているように職業や誇りの象徴だからだ。そこで、二つ以上の役割を兼務する、つまり二足のわらじを履く人のことを “He wears two hats/ more than one hat.” と表現する。途中まで審議官として話していた人が立場を変えて何らかの団体の事務局として発言するときなど “Now, let me put on the other hat.” と一言ことわりを入れると、スムーズに論点を変えることが出来る。

 ボクシングに例えて “throw in the towel” タオルを投げると言ったら敗北を認めてあきらめることになるが、逆に “throw/toss one’s hat in the ring” 帽子を投げ入れたら参戦を宣言することになる。今のようにスポーツとして確立する前のボクシングは興奮した聴衆が我も我もと参加する男臭い娯楽だった。「次は俺だ!」と声を張り上げても周囲の怒号にかき消されてしまうので、帽子でその意思表示をしたことに由来する。

 夏の参議院選に向けて現政権や元与党に愛想を尽かした議員や地方自治体の首長経験者が次々に離党したり政党を立ち上げたり、なにやら “so many hats in the ring” 状態だが、針千本飲まなくても済む政権党が誕生するのはいつのことになるのだろう。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2010年5月号掲載)

要求する猫

朝早く猫の叫び声がする。時刻は多分5時くらい。目を覚ましたタラが大声で叫んでいるのだ。「な~~お~~!」なかなかの肺活量で感心する。

お腹を空かせているわけではない。女王様体質のタラは自分が目を覚ましているのに下々のものがまだ寝ているのがおもしろくない。家族みんなを起こして、あわよくば、ぐりぐりになでて欲しくて叫ぶ。こっちもそうそう猫の言いなりにはなっていられないので放っておいて二度寝を決め込む。猫はひとしきり鳴くと静かになるが二度寝をしているわけではない。寝室のドアの前で張り込んでいるのだ。

しばらくして起きた飼い主がドアを開けると、タラはぱっと立ち上がり、再びさっきと同じように叫ぶ。女王様はその辺の下っ端猫と違って、飼い主の脚にまとわりついてこびを売るようなことはしない。ドアと壁の角のところでしなを作り優雅にしっぽをゆらしながら、しもべの顔を見据えて厳かに命じるのだ。「さあ、おなでなちゃい!」

仕事のある日は丁重にお引き取り願うしかないが、休みの日は出来るだけ御意に沿うようにしている。猫は皆愛されるために生まれてくるのだし、我が家の2匹も可愛がられるために飼われているのだ。

寝室の前の廊下では落ち着きが悪いのでソファのあるリビングに移動しようと歩き出すと、タラはいそいそとついて来る。本当はお腹を空かせていたりすると可哀想なので台所を通って餌場に向かうふりをしてみても「そっちじゃない」と途中で座り込む。餌ではないと確認が出来たところでひょいとすくい上げると「あ~れ~」とばかりに誘拐されるお姫様のようにちょっとだけ抵抗してみせるのがお約束。かまわずソファに座って膝の上に仰向けにして、白いお腹を「の」の字を書くようにマッサージしてやるとあっというまに盛大にごろごろ言い始める。

元々タラは世の中全て自分の思い通りになると思っているポジティブな猫で、いつでも親猫に駆け寄る子猫よろしくぴんと立ったご機嫌しっぽだし、ご飯の前には「嬉しい嬉しい」の爪とぎをする。少しかまってもらっただけでのどをごろごろならすのが、さらになでられて嬉しくなると「ぐふっぐふっ」になる。興奮してピンクの鼻の赤みがまして、宙ぶらりんになった手がにぎにぎをするように動く。そのうち上半身だけぐいっとひねって向きを変えると、タラは私の脇腹でふみふみを始める。

この女王様の赤ちゃんがえりはここ1年ほどの現象で、最初はちょっとびっくりした。一緒に生まれた子猫たちの間でもお姉ちゃん格だったタラは、ふみふみの必要がないくらい良く出るおっぱいを自分のものにしていたらしく、子供の頃はいっさいしなかったからだ。

10年一緒に暮らした猫でも、時にはこんな驚きをくれる。