地震災害から学ぶこと

 ある会議で米国の失業率に言及した講演者が、冗談まじりに「去年はオバマ政権の発足でワシントンでも5000人の政府職員が失職したし・・・」と言うのを聞いて耳を疑った。話には聞いていたがそんなに多かったのかと改めて驚く。Political appointee 政治任用と呼ばれるシステムのもと、政権交代の度にトップ官僚を中心に職員の大幅な入れ替えが行われるのだ。

 前例 precedent が無いことにこだわらない政府の姿勢や機動力もそんなところから生まれるのかもしれない。1月のハイチ地震直後、米国政府はあっという間に所得税法を改正して、本来であれば2010年分の課税所得控除となるはずだった被災地への寄付金を、2009年分として申告できるようにした。

 ちなみに通信事業者も柔軟な対応を見せている。クリントン国務長官自ら携帯電話からの寄付をテレビで呼びかけたのも効果的だったが、何より携帯からある番号にHAITIとテキストメッセージを送るだけで10ドル寄付したことになる text donations の手軽さが受け、二日目にはその総額が500万ドルを超えた。加入者にはその月の使用料と合わせて後から請求されるが、キャリア各社は通常のプロセスに固執せず、入金を待たず即座に赤十字に送金している。

 現場での活動にもクリエイティブな対応が要求された。食料支援が始まるとお腹をすかせた家族のために食べ物を確保したい一心の男達の間で争いが起こり、配給作業に支障が出たのだ。列に並ばせようにも横入りが横行、整理券も力の強い者が弱い者から奪ってしまう。一計を案じたスタッフは女性にしか配布しないことにした。血の気の多い男達と違い、ハイチの女性達は辛抱強く自分の番を待ったそうだ。

 阪神淡路大震災から15年。再びあのような規模の災害に見舞われた時、私達はどのくらい臨機応変な対応が出来るのだろう。官僚総入れ替えがない分、教訓が効果的に蓄積されていて欲しい。

(「毎日フォーラム 日本の選択」2010年4月号掲載)

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