丑年 year of the ox (in the Chineze zodiac)が幕を開けた。お釈迦様の元に出向くのに自分は歩みがのろいからと他のどの動物よりも早く出かけて一番に到着したのに、ちゃっかり自分の背中に乗ってきたネズミに一番を取られてしまったという物語を子供の頃に聞いた。のんびりした動物というイメージがあるため牛歩のごとくと言われたりするが、英語にもいつになるものやらという意味で till the cows come home と言う表現がある。また牛歩を訳す時の定番 at a snail’s pace の蝸牛にも牛が入っているのが面白い。角があることに加えて、動きがゆっくりしていることからの連想に違いない。
牛にもいろいろあって闘牛や暴れ牛はbullと呼ぶ。野球のブルペン bullpen はもともと牛の囲い場だ。a bull in a china shop 陶磁器屋の中の牛というなんともヴィヴィッドな表現は不器用な無骨者のことだが、みんなが気を遣っているのに気づかずぶちこわし発言をしてしまうKY(空気読めない)諸氏にも当てはまる場面がありそうだ。
アーチェリーやダーツの的の中心を bull’s eye と呼び hit the bull’s eye と言ったらどんぴしゃの大当たりのこと。paint a bull’s eye と言う表現を聞いて、だるまに目を入れるようなものかと思ったら、本来は的でないものを標的にするというちょっと怖い意味だった。
牛とクマがペアで使われるのが市場の相場だ。bull market というと上げ相場を意味するが、これは一説によると雄牛が戦う時に角を突き上げるからと言われている。一方腕を振り下ろすクマに例えて下げ相場は bear market となる。
ちなみに兜町では「丑つまずき」と言って下げ相場の年になるとの格言があるそうだが、前年の「子(ね)は繁栄」が大はずれだったのだからあまり気にすることもないだろう。この際少々KYだろうが無骨だろうが元気の良い bull の方になってくれることを祈りたい。
(「毎日フォーラム 日本の選択」2009年1月号掲載)